2008/10/13

のうが悪い、もごもご。

私の実家は祖父に祖母、父に母、それに姉と弟と私の7人。
そのうち母親は広島出身で、
今ではもうバリバリの土佐言葉を使うけど、
私がまだ実家にいた頃は広島に高知がブレンドされたマイルドな喋りだった。
地形的にも愛媛の言葉と近かったと思われる。
母は働きに出ていたが、ほとんどの家の会話は母から始まったので
子どもたちも中途半端な土佐言葉になってしまった。
田舎の村で誰からも指摘されたことがなかったことは不思議だが、
高校で高知市内の学校に行っていた頃はそれをバカにされたもんだ。
反対に父の言葉は荒くたい喧嘩上等言葉、
本人は浪人時代に京都、大学時代に仙台と居住区は様々に変わっているが
土佐のココロを忘れたことはない、
いやむしろ厚かましい大阪人のごとく
土佐言葉を標準と思っているところがある。

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「何しよらぁ、おんしゃあ!」
高知の実家に帰省したとき、
空港まで車で私を送ってくれた弟が
無理な割り込みをされてとっさに発した怒号です。
けっこう無茶かつ危険なタイミングで割り込まれたので
笑い事ではなかったわけなんですが、
聞いた瞬間思わず笑ってしまいましたねぇ。
あー、そうだよ、
この荒っぽい腹の底からの怒号は確かに土佐の言葉だよ。
土佐の喧嘩言葉だよ。

単純な直訳としては
「何をしてやがる、この野郎」程度の感じなんですが、
やはり土佐弁のほうが無駄に荒い。
そしてこの言葉にはやはり腹の底から
喧嘩上等でたたき出す早口の怒号がよく似合う。
(中略)
「何しよらぁ、おんしゃあ!」
これは相当怒ったときしか出てきません。
とっさにこれが口をついて出るということは
その瞬間激怒しているということです。
世の中、アホ・バカ・ボケ・カス、罵り言葉は数ありますが、
この「おんしゃあ」という怒号にはそうした一般化された言葉では
表しきれない深刻な罵りが籠められているのです。
(中略)
「何しやがるてめえ、危ねえだろうが、
目ン玉ついてんのか、前全然見てなかったろ、
このド下手くそ、ぶつかってたらどうする気だ、ぞっとさせやがって、
もしぶつかってたらただじゃおかなかったぞこの野郎、
事故にならなかったことを神に感謝しやがれ(以下略)」
とまあ、軽くこれくらいのニュアンスが載っているわけです。
これが一言に濃縮還元されて、「何しよらぁ、おんしゃあ!」であります。

方言の豊かさ、というものを実感した瞬間でした。
あんまり品のいい場面での実感ではありませんでしたが、
まあ喧嘩上等のお国柄なのでそれはやむなし。
(中略)
この喧嘩腰のニュアンスを遺伝子レベルで覚えている自分も
なかなか大したもんではないかと。
あまり誉められたことではないかもしれませんが、
こういう場面でとっさに「何しよらぁ、おんしゃあ!」
と出てくる弟も、それに共感できる自分もそんなに嫌いではありません。

※とっさのほうげん その22(asta* 2008年8月号/文:有川浩)

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喧嘩言葉という道具を持っていることは仇ともなる。
(道具は活用するためにあるからだ)
おかげで父といっしょに街に出るのは恥ずかしかった。
なんせ車から窓をわざわざ開けて
「何しよらぁ、おんしゃらあ!(複数形)」と
荒くたい運転の輩に当然のごとく喧嘩を売り、
レストランで料理を待ちきれなくなったら
「のうが悪い!(具合が悪い、環境が悪い、居心地が悪い、など)」
と捨て台詞を吐いて店をとっとと出ていく。
母は堂々たるもんで、そんな父親にピクリともせず、
料理をじっくり待ってきっちり食べる。
父の元に戻れば、車の中ではカメラを持ってケロリの姿、
母親の怒号に今度は父が肩をガックリと落とすのだった。

言葉は土佐ではないが、私の喧嘩上等な性格は父譲りか。
こないだタニモト氏にいろいろと報告をしに行った際に
自分の熱気が恥ずかしいという話をしたのだけど、
そろそろ自制心を持ちたい、そろそろマイルドになりたい、
と思う今日このごろ。

というわけで?、よくわからないこの状況下では、
諦めるもんは諦めるの精神でいこうかと。


生粋の阿波×中途半端な土佐のこのヒトはどんな言葉を喋るんやろ。


追記
方言のことを考えていたら、
難解な土佐言葉を思い出しました。
「おんしゃらあ、まっことしわいきにゃあ」
翻訳できる方、いらっしゃいましたらご一報を。
(文節すら分からない方が多いのでは)
これちなみに、中学のときの先生がよく使ってました。
難解…と言えば文中の「のうが悪い」は最大に難解な土佐言葉。
漢字で書くと「能(能力、能率)が悪い」ということでしょう。
一度使うと他に言いようのない便利なニュアンス。

(文中以外での使用例)
・このイス、のうが悪い。(=座り心地が悪い)
・今日はのうが悪いので早退させてください。
(=原因不明だけど気分が悪い)
・そこに座ったらのうが悪い。
(=何かが見づらい、狭い、など不快を表す)
などなど


追々記
「縁」は人を呼び、人は「運」を運ぶ。
いい言葉ですねー。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ここに迷い込んでしまった。
だから、ついでにあなたの約2年前の疑問にお答えしましょう。

「おんしゃらあ、まっこと しわい き にゃあ」
「お前ら、ほんまに しわい き ねえ」

細かいことを言うと「おんしゃらあ」ではなく、「おんしゃぁらぁ」が正しいかな。
もっとも、「おんしゃぁらぁ」よりも「おんしらぁ」か「おまんらぁ」の方が一般的だと思うけど。

問題は「しわい-き」の部分
「しわい」はぴったりの日本語がないからなぁ。
小ずるい、言うことをきかない、手に負えない、横着な、(場合によっては柄が悪い)なんかをひっくるめた意味だと思えばだいたいあってる。
「-き」は、「-んだから」「-ないんだから」というような意味。

「にゃあ」は「ね」「ねぇ」と言う意味だけど、この場合は断定的に感想を延べている。

多分、先生がこの文を言ったとき、笑顔だったか溜息をつきそうな雰囲気だったか、どちらかだと思う。