2009/03/28

カラムーチョと、まくしたてるカン高い声。

訃報。
エルマガジン社が誇るべき校閲の大プロ、
小原美砂さんが亡くなられた。
今日が葬儀とのこと、
東京の編集部隊同様、私も参列はできない。

小原さんは喫煙者で、だから喫煙所にて仲良くしてもらった。
小さいカラダでカン高い声、まくしたてるような口調で
いつも格好つけて生きていた。
昨晩、テンコから知らせを聞いたときには
酔っ払っていたのもあってうまく処理できなかったけど、
一晩明けて改めて思った。

小原さんは、自分で意識はないだろうが、愛着のある相手に対して
または愛着を持ってくれる相手に対して、
素直に正直に、隠さずに本性を見せきっていた。
それは仕事にも然りで、校閲のプロとしてやるべきことをやった後に、
打てば返ると思える人に、きちんと打った。
それは、後で大先輩から聞いた逸話でも伺えた。
不器用で人間的、そんな人がバシバシと校閲に入ることの安心感。
小原さんの仕事は、本当にプロだった。
ミーツの「なんば」特集で、私はミナミの話を書いた。
全ての始まりはそこだった、みたいな
背伸びした話を書いていた途中で行き詰まり、
喫煙所で出くわした小原さんに出力した文章を見せて相談したときに、
「もっと西村ちゃんの言いたいことを読んでみたい」
と言われたことを思い出す。
書ききったけれど、それが自分の言いたかったことなのか自信はない。

身近にいる尊敬すべき人がいなくなるということには
やっぱり慣れることができない。
早すぎるんだ。


--以下、以前に小原さんのことを書いたブログを再録。


「誰か私に欲情して」とは、中村うさぎの著書の帯に書かれたモンクで、「ものすごくうなづいたの〜」と出版事業部のテンコが興奮して言っていた。すさまじくスレた、かつ純粋なモンク。「誰か私に欲情して」とは、意識の外で私も思っているような気がする。(スレてると純粋はよく反対の意味で使われるけど、絶対に間違っていると思う)

校閲のプロフェッショナル、推定60歳の不良少女は、いつでもカリアゲにショッキングピンクの口紅、パーカー。ロックがめちゃめちゃ好きで、ミーツの音楽ページはくまなくチェックしている(てかチェックしようとしなくても目に入るか)。「この服ね○○で買ったの〜、いいでしょ」とタバコ場で自慢する辺りが少女。こないだ辞めたウチの美人な新人に対して、「アノコはオトコに媚を売る」などその評価には珍しくけっこうな女的厳しさを見せていた。ま、言ってもそのばあちゃんも、私に話す声のトーンと、オトコに対する声のトーンには「#」くらい違っている。意識はしていないのだろうが、意識してない辺りがまたヤらしい。きっと無意識に「誰か私に欲情して」と思っているのだろう(思っていてほしい)。歳を取ってると思って甘くみたら後悔する。

前編集長は、不良少女の校閲に「さすがやのぅ。シビれる校閲や。さすがプロやなぁ」と必ず声をかけていた。不良少女の仕事ぶりは、編集長が交代した今だって変わらないが、そういう意味では、「この朱書きシビれるのぅ」などちゃんとこだわった細かい部分を理解していた前編集長はやっぱりデカい。ま、その辺が「欲情」として受け取られていたのだろうなぁ(その意味通りの「欲情」ではないだろうが)と最近思う。やったことへのこだわりの部分を見つけてもらうことは、無償の奉仕へとつながることも多い。それは無償の愛でご奉仕する官能的悦びと似ている。

「欲望」に応えるのはカネや名誉じゃないことは、特にこの業界ではキレイ事でなくよくある話。カネやら名誉も大事だけれど、相思相愛で作ったものは、そういうものを目当てに作ったものより強い。昔のウチの雑誌ではたぶんそういうのでおもしろいスタッフが内外にいたんだと思う。で、そうならなきゃおもしろくはないだろうなぁとか、たまに思ったりする。
(2006年9月11日)


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これからもきっと、
カラムーチョと明太子せんべいを見るたびに
小原さんの真っ赤な口紅とキャップと
キンキンに響く口調を思い出すだろう。
小原さん、お疲れさまでした。

2009/03/27

ロートル魂。

私のパソコンは2台。
ひとつは、去年買ったばかりのiMac、
モニタはテレビよりもでかくて24インチ
(単に私のテレビが小さいだけ)
もちろんインテル搭載、
メモリも増強させていただいたし
キャパも広く、作業も素早い「デキる子」だ。
たとえるなら、スマートで背も高くて別嬪で
仕事のできるいい女、といったところ。
しかし彼女をウロウロと持ち歩くワケにはいかず、
常日頃持ち歩いているのはもう8年ほど前に買ったノート。

こないだお茶をこぼしたので
カーソルの「↑」がとうとう効かなくなってしまった。
ちなみにインテルなんぞ入っておらず、
無理矢理にOXの10.4を入れてみたものの、
入れたおかげで動きはノロノロと散漫になった逸材。
ちなみに残っているメモリは100MBとちょっと。
鼻にメガネかけて、近所のおっちゃんと無駄話をしながら
そろばんをポツリポツリと打っては
「あー間違えた」と言って何度も何度もガシャガシャと
リセットするようなそんなおっさんと似ている。
別に嫌がっているわけではない。
時間に余裕のあるうちは。
このロートルの愚鈍なハゲのおっさんに鞭打ちながら
せっせとデータを作っている。
麗しい美女に早く会いたい。
そして、できることなら、5月からの高知おこもりでは
「デキる」人材を投入したい。
できることなら。

と、ブツブツ言いながら
このテキストを作っているのもロートル愚鈍ハゲ。
今からまた事務所に入って打ち合わせブースの一角を占拠し、
スペックの整理とフォーマットの原稿を作り、
取引先メーカーとその商品の一覧を作るんだが、
その作業を支えるのもロートル愚鈍ハゲである。
私のように熟れたキーボード打ちには到底着いて行けず、
しばしば「どうしたんや、じいちゃん」と振り返って元来た道を戻り、
タンを吐こうとゲホゲホ言うじいちゃんの背中をさする。
道中は、長いぞ。

2009/03/26

ジミヘン。

こないだプレゼンした介護用品のカタログの制作が決まり、
さらに、下着のカタログ制作は引き続き…というよりも
ありがたいことに、名指しにて続投決定(自慢)、
いよいよ撮影からプルーフまでの工程に入ってしまったので
私の周り(てか、私)は一気に祭りの形相。
ちなみに、カタログ制作における「祭り」とは、
「しっちゃかめっちゃか」、という意味である。

ま、下着のほうは、改善の余地は多々あれど、
慣れたスタッフとの仕事ゆえに心配は少ない。
今、私を縛るのは介護用品のカタログだ。

介護用品のカタログの主は高知にいる。
アジト(本社)は高知市でも春野町の麓、住宅街のほとりにある
バラック小屋みたいな建物。
ヤ○ザのごとくぬっとした存在感の社長を筆頭に、
マッチョな社員で固められ、数字だけを見ても年商350億、
ギョッとさせられる「デキる」会社だ。
打ち合わせはものの30分もあれば充分に終わり、
250ページに及ぶカタログの商品取材の際も
投げる質問に対してとっとっと、と答えが出て、
わずか1日と半分で全ページの概要を把握させられた。
問題を先送りにしない、仕事が終わればとっとと飲みに街に出る、
などの大胆不敵で陽気な様は、高知に根付いた性格でもあるんだろう。
これまでに作られたカタログを見ても、
節々におもしろ要素はふんだんにある。
ミッションは、もっと元気があっておもしろくて話の早いカタログをと。
冷や汗タラリ。

おかげさまで、高松の事務所におこもり状態である。
昨日の朝からずっとカタログとにらめっこで
おもしろい話を落とし込むためのルール作りに悩んでいる。
その作業はおそろしく地味だし、
200ページにわたり、車いすや浴槽から、
肌着、食器、食材に至る様々な300種もの
商材を集めるカタログはヘビーの一言。
作業をする全員が、商品知識のあるスタッフならいいが、
使っていいのはデザイナーでなくDTPオペレーターのみ、
ボリュームがあってスピードを要求される作業日程のため、
原稿は広範囲の人に整理してもらわなければならない。
てなわけで、一口にスペックの整理と言っても
たとえば「サイズ」を先に出すか「素材」を先に出すかのルール決めが必要。
そして多岐に渡る商品であればこそ、
語り口は様々だし、知りたい情報の順位は変わる。
云々云々。

と悶々とした風情で言いながらも、
このジミヘン(地味でヘビーな編集)作業、嫌いじゃない。
こないだの打ち合わせでも「商品がわかるようにやってくれるなら」との
緩い条件をいただいて頭の中で何かが「キラリン☆」と光った。
情報を地道に理解していきながら
「これはこうしよう」「これはああしよう」のページが見えてくる。
今朝も、その妄想を早くカタチにしたいが余りに早く目が覚めた。
新しいおもちゃを与えられた子のように夢中。
さて、やりましょ。