2008/01/07

すき間に気づいた年始。

忘年会やライブや、忘年会ではない飲みなどが重なり、
追われるように飲んだ年末から一転、31日から実家に帰っていた。
実家は高知県にあり、海までだってクルマで40分ほどの場所だが、
四国山地の頂近く、深い山の奥にある。
山の奥の実家は雪にまみれていた。

実家からクルマで5分の、ヴーヴ・クリコを置くシャレたコンビニも、
年末だから通常10時閉店を8時に切り上げる。
立ち寄ったときはまだ夕方の6時だったが、
闇と、ポツンと灯る店の照明に光る白い雪が
真っ当な夜を普段以上に深くする。
ビールを数ケースと、母親用の携帯電話の充電器と、
父親の好きなクボタの花饅頭を買って外に出る。
白い息を吐きながら空を見上げれば、
新しい星を発見できそうにたくさんの星が見えた。

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正月明けて、雪も溶けかけた3日、
弟をたぶらかせて須崎の港まで連れて行ってもらった。
父親からもらったカメラをぶら下げて写真を撮るために。
弟には須崎に出る用事がないから、ツタヤでDVDを借りる用事を作った。
気分は、好奇心旺盛なおばあちゃんと、それに心配そうに付き添う堅実な孫。
言うつもりはなかったのについその例えを口にしてしまい、
不思議そうな顔をして笑われた。

須崎の港には新年から釣りをいそしむ家族連れが多くいた。
ふらりふらりと歩いていると、
船着き場辺りに来たところで丸い顔をした魚が目の前の宙を舞った。
魚はピチャッと船着き場の地面に着地してピチピチと跳ねる。
時に休み、休んだかと思うとまた跳ねた。
「これ、フグですか?」
聞くと目の前で海に網を突っ込んでいたおっちゃんが
「高いヤツやでぇ」とニカニカッとした。
へぇ〜と言いながらおっちゃんの働きを眺めていると、
突然におっちゃんは振り返り
「もう本マグロ連れた船が帰ってくるき」と教えてくれる。
待つのも不自然な感じがしたけれど、
そのまま帰ってしまうのも不躾に思えて、
なんとなくマグロ船を待つことにした。

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大学を出て数年もの間、自由な時間ができるとかえって困る
というような感じで日々を過ごしてきた。
今の会社は、自分で何かを考えていることのほうが多くて
日常的に「無駄」なことばかりを考えている。
「無駄」なこと、つまり、考えること、食べるもの、話す相手、
話す内容、感じることなどそういう些細なことを流せない。
時間はたっぷりあるつもりなのに、まだ時間を足りないと思う。
で、不思議にもイナカでの退屈だった時間が立体的に見えた。

昨日、大阪に戻ってきた。
ヒマ潰しに買った『yom yom』で、ぐっときたのを引用する。

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その人は急に、どうしても郵便局の私書箱を
チェックしなければならないような気がしてくる。
それは昔から欠かさずやっていることで、
もちろんこれから先は何もかもがうまくいくにしても、やはり手紙は欲しい。
すぐに戻ってくるからとその人が言うと、
その人が知っているすべての人たちは、
いいよ、ゆっくりでいいからね、と言う。
その人は自分の車に乗って郵便局まで行き、私書箱を見るが、中は空だ。
その日は火曜日で、火曜日は郵便が多い日ということになっているのに。
その人はひどくがっかりして、車に戻り、
ピクニックのことをすっかり忘れて家に帰ってしまう。
留守電をチェックするが新しいメッセージは何もない、
あるのは古い”テストをパスした”とか”人生はもっといい”とかいうやつだけだ。
メールも来ていないけれど、
これはたぶんみんながピクニックに行っているからだろう。
その日は、とてもピクニックには戻れそうもないという気がしてくる。
このまま戻らなければ、自分が知っている
すべての人たちをすっぽかすことになるだろう。
けれども家から出たくないという思いはどうしようもなく強い。
お風呂につかって、ベッドの中で本を読みたいとその人は思う。
(yom yom/ミランダ・ジュライ短篇ふたつ/その人/訳・岸本佐知子)

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月に最低三回東京に出てゆくが、
同じ日の夕方に柳家小三治と小林旭と曽根崎心中と
ボンボンブラザーズと大竹伸朗と、
マルクス兄弟特集上映とキグレサーカスとが人を集めているすぐそばで、
ニール・ヤングがうつむいて轟音のギターをかき鳴らしている、
というのがまったく普通であることを見るにつけ、
ふだんの暮らしとのギャップに転がり落ちて、また足首の骨を折りそうになる。
(yom yom/遠い足の話/いしいしんじ)

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トラウマリスのドアがギーと開き、鉄割の戌井さんが友達と入ってきた。
突然すぎて、僕も住吉さんも一緒にいた人もかえって驚かず、
オー、アー、と手をあげて迎えた。
戌井さんはワインを飲みながら、いま書いている小説の一節を話した。
僕が諏訪のライブの感想をいい、「デス・プルーフ」の話をしたら、
戌井さんが、きのう北千住で「旅芸人の記録」見たんですけど、
激感動でしたよー、といったのにはさすがに驚いた。
住吉さんがカウンターから、しんじ君、戌井君、十二月なんだけどさー、といった。
そしてその場で、十二月二十二日、トラウマリスで、
戌井さんと僕が、自分の新作を読む朗読会をやることが決まった。
東京の「すきま」はこうして埋まっていく。
(yom yom/遠い足の話/いしいしんじ)

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「すきま」って聞くとなんだかしっくりきた。
そうか、そうか。うむ。

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