2013/04/26

登場人物。

朝ドラを観ていていつも切ない気分にさせられるのは、
主人公を巡る登場人物の入れ替わりだ。
主人公が必死で生きていればいるほどに、
振り返ったときに「もう戻らない」ことにやっと気付いてハッとする。
『あまちゃん』、サイコー。今週は観てなかったけど。
『カーネーション』は、名作だった。
るえかさんは酷評していたけど、あれはすごくドキドキした。

そういえば、必死で立ち回っていて気付いていないことはしばしばだけど、
私の周りの主要な登場人物も流れていく。
他人の人生をドラマで観ながら、その現実にふと目が止まって
いろんなことが急に愛おしくなる。
二度と戻らない今日の日を。
二度と戻らない今のこの会話を。
ココロにピンで留めておかなきゃ。
陳腐なこんな発想が急に浮かんできたのは、
今、甥のためにと家で留守番をしていて、
今日は天気がいいし、布団も干したし、シーツも洗ったし、
庭には気持ちのいい光が入っていて、そして風がちょっと寒いからだ。
こんな日はもったいなくて、いろんなことをしたくなる。
…あ、勉強しなきゃ。

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ひとつ屋根の下で。

家を出ていった息子、「家を継ぐよ」と残った息子、そして娘。
家がある、その数だけホームドラマもある。
ひとつ屋根の下、力を合わせて、ひとつの仕事をしている、
それだけで幸せな家族を、
日本のさまざまな町で訪ねてみた。

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おばあちゃんは、産まれてすぐにこの家に養子できた。
おじいちゃんは兄弟が多くて、それこそまだ幼かったころに
この家に養子に入ることが決まっていた。
全てはこの「西村」を引き継ぐため。
私には想像ができない。
あるとき、おばあちゃんに結婚のことを聞いたことがある。
「よくわからない。当然、そうするべきだとしか思わなかった」と言った。
それはどういう心境なのだろう。
こんなイナカの街で、特に政治的に、とかいうことでもないだろう。
でも、何年も、何十年も、いっしょに過ごした。
おじいちゃんとおばあちゃんは
炬燵でのんびりとテレビを観ていることが多かった。
そして結果として私たちが今、ここにいるし、甥も姪もできた。

お父さん夫妻がイナカに帰ってくるまでは、
前の家にお父さんの兄弟も住んでいた。
いつの日か、お父さんに家族が増え、
兄弟たちもそれぞれに生活のペースができて離れていった。
私もいつか、そうするんだろう。

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奥さんが「これでもつまんでください」とお茶うけに
ふっくら大きい梅干しを出してくれた。
「カカアは漬物作りが趣味だから」、
囲炉裏の前でご主人の又三さんがそう話す。
つい先日も大根を500本漬けた。
もちろん店にくるお客さんに食べてもらうものだ。

「学校出て、店で仕事をするようになって45年ほどたつかな。
とはいってもこのあたりで昔から打ってるそばを、
父の時代も、そして今も同じように出しているだけ」

午前10時、開店前の店では誰もが忙しく立ち働いている。
仕事の合間をぬって娘の真弓さんと紅子さんが顔をみせてくれる。
「私、学校の先生をしてたんですが、先生のなりては他にいても、
あらきそばを継ぐのは私しかいないと思ってね。
夫の光さんは幼馴染みでエンジニアだった。
そば打って広げるとき図面をひくように測るんじゃないかっていってたの」
と長女の真弓さんが明るく笑う。

「大将もそば打って20年になるかな、
まあ、オレがきちんと粉碾くといいそば打つようになったよ、なあ、大将」
と又三さんが奥に声をかける。
「じいちゃん、ばあちゃんが上司だから大変ですよ」
といってのぞいた顔がいかにも優しげだ。

父が粉を碾き、娘婿がそばを打つ、母がそれを茹でて、娘二人がお客さんに出す。
「お客さん一人きても家族が一斉に立って動く、いいことだなあって思うよ」。

そのそばを食べた。
つなぎはなしのそばは黒々と太く、なかなかかみ切れないほど、
しかし、かみしめるほどにしみじみと味が広がる、
まるでこの家族のようなそば……。

「今月のホームドラマ ひとつ屋根の下で。」より
『翼の王国(1998年3月号)』

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2年前、おじいちゃんの米寿のプレゼントで
おじいちゃんのこれまでの写真をまとめたフォトブックを贈った。
作っているときに、恥ずかしながら、今さらながら、
おじいちゃんの、おばあちゃんとの、
または、私の知らない誰かと過ごした人生に想いを馳せた。
私は、おじいちゃんが「おじいちゃん」であるときに生まれた。
おじいちゃんの「おじいちゃん」以外の顔なんて想像したことがなくて、
初めておじいちゃんのこれまでの人生を振り返って想像して、
少し泣きそうになったのだった。

今の家は、お父さんとお母さんの家だ。
二人が、自分たちが余生を過ごすことも考えて建てた家だ。
完成したのは、甥が産まれたのと同じ年のこと。
今、7年目になる。
このわずか7年の間でも、この家を舞台にしたホームドラマでは
登場人物がいろいろ入れ替わりをしている。
3年前なら、私が今、ここでこうしていることを想像しなかったし、
5年前なら、姉が今、ここでこうしていることを想像しなかった。
甥も同じく。
去年の夏の終わりにおじいちゃんが逝って、
おばあちゃんはおとついICUからHCUに移ることができたけど、
この家に戻ってこれるかどうかはわからない。
年齢も年齢だし、それにはたくさんの意味を含んでいる。
いつか、おじいちゃんとおばあちゃんの過ごした部屋で
他の人が過ごす日々もやってくる。
たくさんのことが変わっても、家はみているのか。

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