2008/02/11

料理でこんなに感動するとは。

ひとしきり原稿を書いたあと、
再度話を聞きに来ると約束をしていたイタリアンに行く。
昨日の日曜を指定されたけど、
それは定休日だから都合がいいとのことで。
前回、撮影だけでうかがったときは
アイドルタイムではあったものの、
仕込みでそうとうバタバタとしていて
店主の藤原さん、そうとうに気が立っていた。
こんなにバタバタイライラしてたんじゃあ、
とも正直思ったりした。
昨日はそのときのバタバタぶりをまず謝られ、
そして撮影で出してもらった料理を再度いただく。

アミューズはまず、
飛鳥村から汲んできた水を凍らせて
バルサミコをかけたのみというあっさりとしたシャーベット、
それにカラメルとレモンで味をつけて雪だるま型に固めた飴、
ニンジンをジュースにして泡立て固めたウェハース、
イカスミとブドウ糖、中にパプリカや胡椒を入れたせんべい。
これは前菜じゃなくデザートでは、と度肝を抜かれる感じで、
撮影時にはそうとう不安になっていたのだけど、
全く甘くなく、むしろ酸味がどれも効いていて、
というか、誰かとこれをいっしょに食べたら
楽しいだろうなと想像させられた。
見た目も繊細極まりなく、次に出てくる料理にも期待が高まる。

もちろん、フルコースでいただくワケではない。
撮影したのはこのアミューズと最後のデザートだから、
あと試食させてもらうのはデザート。
ビスケットに近い生地のお菓子、と藤原さんが説明するように、
少し固めの生地を薄く切ったお菓子に、
キャラメルと濃厚なミルクのクリームがかかり、
その上にシナモンを細かく泡立てて甘みを加えたアイスがかかる。
アイスは口に入れるとフワッと消えてなくなる。

藤原さんは、フレンチの学校を出た後、
自分本位の興味からイタリアへ渡り、イタリアンを修行。
イタリアンよりもっと細かい料理をとスパニッシュを勉強するに至る。
だから、よく紹介されるのが「イタリアン×モダンスパニッシュ」。
というかどちらの料理のオーセンティックな形のものも
私は食べたことがないので単純にこのアミューズとデザートに驚愕した。
すし特集のときに初めて江戸前をカウンターで、
しょうゆなしで食べたときと似た感動。
お金を出さずともおいしいものは食べられるけど、
お金を出してこそ味わえる料理もあるのだと、
改めて「知らなかったこと」を残念に思った次第。

ところでその、アミューズに出てきた飛鳥村のシャーベットは、
イタリアで修行中にヒントを得たものだという。
修行で行っていた店はいわゆるトラディショナルなイタリアンの店で、
オーナーシェフは頑固なおばあさんだったらしい。
バルサミコって昔はどういうふうに使っていたのかと聞くと、
そのおばあさんは「雪にかけて食べたのよ」と教えてくれた。
今ではチーズにバルサミコ、なんてのもよくあるけど、
それをするのが高価だったころのこと。
なんとなく、これは渾身のメニューのひとつなんだろう。
「なんの努力もしてないし、シンプルなもんです」
と藤原さんは笑うけど、なんだかとても感動してしまった。

店自体は4代続く老舗の洋食。
代替わりの際に古い店を全部潰して全面改装をした。
厨房は全面ガラス貼りで、清潔感もあり、緊張感もあり、
グルーヴ感もライヴ感もある。
これまでの古い客に嫌われるのをイヤで
ランチはぐっとグレードを落として1,000円。
(とは言ってもそうとうに努力をされている)
ランチとディナーとで作るものの根本が違うから、
朝は6時から仕入れと仕込みが始まり、
夜は深夜の1時ごろまで新しいメニューを考えたりしている。
「本当はランチをやめて、
もっと好きなジャンルの料理に専念したいんですけどね」
料理だけじゃなく、ワインやデザートや接客も含め、
全てにおいてパーフェクトなサービスを追求されている。
「けっこう厳しいからって、スタッフもよう辞めるんちゃいます?」
なんて失礼かな、と思いながら聞いてみる。
「そうなんですよね。ひとつ怒鳴ると、ボクの姿から遠ざかるみたいにされるし。
でもやっぱりレストランというものの考え方のテンションが合わないと」と。
ちなみに、藤原さんはどう見ても見習いの若造にしか見えない。
「あのチョロチョロしてるのは誰やねん、てお客さんにはよう思われてるみたいで」
正直に言って照れて笑うから、ナマイキな異端児との評判もええ感じ。

実は昨日、到着したときは法事のために藤原さんのお母さんしか店にいなかった。
ちょろちょろと交わした会話の節々が妙に温かかったのもよかった。

2 件のコメント:

mako さんのコメント...

ここ行きたい!連れてって。

otas さんのコメント...

たっかいでぇ〜。
予算12,000円。